キリンソウと四季の彩り日記屋上緑化システム株式会社
技術顧問 山下 律正
15 EMS化学突然変異実験 試薬
キリンソウ緑化への挑戦
キリンソウ化学突然変異実験の段取りと要点
EMS(エチルメタンスルホン酸)試薬について
今回より化学突然変異をするための実際の手順と段取りについて解説します。
第1回 試薬
化学突然変異剤は多くの種類が有り、有毒のナイトロジェンマスタードから食品でも使われている亜硫酸ナトリウム、薬品に使われているコルヒチンなど無害と思われる物でも使い方により変異薬になります。
本講座では、1950年より実績のあるエチルメタンスルホン酸(EMS)「メタンスルホン酸エチルと表現している場合も有り」を使っての実用実験について解説します。
なおEMSの化学的特性、効能は、本講習では行いませんので文献等で検索し学習してください。
日本で入手可能なEMSは4種類あります。(2018年当時)
シグマアルドリッチ(ドイツ)、関東化学(日本)、 和光純薬(日本)、 東京化成(日本)いずれも成分的には同一であるが、EMS製造ロット、試験体、添加剤、試験時期の違いで同一の結果にならないので、予算の余裕が有ればシグマアルドリッチ(ドイツ)+日本製の2種類の試薬を使って試験をすることをお勧めする。
効果が出た場合は、試薬のロットNoを指定して再入手しないと同一の結果が出ないので試薬準備は重要である。
EMSは取り扱いの少しの違いで効果が異なり、結果が計画の差か、植物間の遺伝特性あるいは試薬による差なのか不明になり再現できなくなるので注意が必要です。
質問・相談は
東京都市大学 総合研究所 客員研究員 山下
直通メール:yukistr@oboe.ocn.ne.jp で受付けています。
試薬例
M0880 Sigma
メタンスルホン酸エチル Ethyl methanesulfonate liquid
別名: メシル酸エチル, メタンスルホン酸エチルエステル
メタンスルホン酸エチル liquid | Sigma-Aldrich (sigmaaldrich.com)
東京化成工業株式会社
CAS RN: 62-50-0 | 製品コード: M0607
Ethyl Methanesulfonate
純度(試験方法): >99.0%(GC)
別名:
メタンスルホン酸エチル
Methanesulfonic Acid Ethyl Ester
規格表
外観 無色~ほとんど無色透明液体
純度(GC) 99.0 %以上
物性値(参考値)
沸点 89 °C/10 mmHg
引火点 100 °C
比重 1.21
屈折率 1.42
Ethyl Methanesulfonate 62-50-0 | 東京化成工業株式会社 (tcichemicals.com)
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参考文献:「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)
突然変異の種類
生物の遺伝情報を担う染色体上の遺伝子の本体はDNAである。DNAは上に述べたように、自分と同じ分子を正確に、忠実に複製する一方で、体を作る体細胞から生殖細胞が形成されるときには、染色体数は半減するが、受精により両親から受け継いだ遺伝子は確実に受けつがれ、さらに子孫へとその遺伝子は伝えられる。したがって、DNA上にたくわえられた遺伝情報は、世代を経ても安定に子孫に受け継がれて行くものである。
しかし、地球上に生息するすべての生物は、太陽からの紫外線や生物を取り巻く自然環境、または人間が作り出した数多くの有害物質、放射線などにさらされている。このような外的要因の他にも、生物細胞自体の分裂、増殖、DNA複製の際の誤りが長い年月には少なからず起る可能性が考えられる。このような内外の要因によって、遺伝情報に生じた変化を突然変異(mutation)という。突然変異には図1・18に示したように、染色体に起る染色体突然変異(chromosome mutation)と、遺伝子(DNA)に生じた遺伝子突然変異(gene mutation)がある。
図1・18 突然変異の種類
染色体突然変異 | 数量的変化 | 倍数性 | コルヒチン、高低温 |
異数性(不分離) | 加令、有機水銀 | ||
形態的変化 | 切断 | X線、ナイトロジェンマスタード | |
欠失 | X線、ナイトロジェンマスタード | ||
逆位 | X線、ナイトロジェンマスタード | ||
転座 | X線、ナイトロジェンマスタード | ||
重複 | X線、ナイトロジェンマスタード | ||
遺伝子突然変異 | 塩基の置換 | 5-プロモウラシル、2-アミノプリン、エチルメタンスルホン酸& | |
削除 | プロフラビン、アクリジンオレンジ、ICR-170 | ||
挿入 | |||
主鎖切断 | エチルメタンスルホン酸、X線 |
生物には人間が手を加えない自然状態でも、低い頻度ではあるが突然変異が起り、これを自然突然変異(natural mutation)、または偶発突然変異(spontaneous mutation)という。これに対して人間が放射線や化学物質などを作用させて高率に突然変異を起させることもできる。このように人間が手を加えて誘発させた突然変異を人為突然変異 (artificial mutation)、または誘発突然変異(induced mutation)という。突然変異が生物の体を構成する体細胞に生じたものを体細胞突然変異(somatic mutation)といい、がんの初期段階になったり、種々の奇形や疾病の原因になったりするが、子孫に伝わることはない。しかし、これが生殖細胞に起ると生殖細胞突然変異(germ cell mutation)と呼ばれて、その突然変異は子孫に伝わる。
染色体突然変異
染色体突然変異は染色体異常(chromosome aberration)と呼ばれ、図1・18および図1・19に示したように染色体の数に異常を生じたものとしては、染色体数がゲノムのセットとして倍加した倍数性(polyploidy)や数本の染色体が増減した異数性(heteroploidy)がある。また、染色体の構造的、形態的異常としては、染色体の一部が消失した欠失(deficiency)、繰り返しが起った重複(duplication) 、2本の染色体がそれぞれ切断してつなぎ変った転座(translocation)、染色体が2か所で切断して、その中間部分が逆になって再結合した逆位(inversion)、染色体の一部が切れた切断(breakage)などがある
遺伝子突然変異
遺伝子DNAのレベルで突然変異が起ると、DNAを構成する塩基に種々の変化が生じる。DNAの二重鎖の1本の鎖の一つの塩基が、他の塩基に置換した塩基置換(base change)が起ると、そのDNAが複製することにより、置換された塩基をもとに複製した二重鎖の塩基対がもとの塩基対とは別のものとなり、その後このDNAの複製によって生じたDNAはすべて同じ塩基対が置換されたものになる(図1・20)。このような塩基対の置換によって、その塩基対を含むコドンが変化し、翻訳によって生じたアミノ酸も変化する。このようなアミノ酸の変化によってタンパク質の性質が変化したり酵素の活性が失われたりすることもある。
また、一つの塩基が付加されたり、欠失したりすると、DNAの塩基の数自体が変化し、タンパク質合成の際には変化した塩基以下のすべての三つずつの塩基(コドン)の枠組みが変る塩基枠変化(flameshift)となり、タンパク質合成の際にはmRNAのかなり広い範囲にわたってコドンが変化し、翻訳されるアミノ酸が変化して、タンパク質の性質に大きな変化をもたらす。
「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載
実験では、化学物質、危険物を扱うため該当の国家資格が必要な場合も有ります。
実験管理者と相談の上管理のもとで行ってください。
実験前にMSDSを読んで取り扱い方法、注意事項を厳守しましょう。
当ブログは化学突然変異実験の手法紹介であり、参考にして実験した結果を保証するものではありません。
試験は発がん性物質を使いますので、適合資格者が取扱い責任を果たし、自己責任で行動してください。
次回はEMSを使う上での諸注意について解説します。
技術顧問 山下律正
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