キリンソウと四季の彩り日記屋上緑化システム株式会社
技術顧問 山下 律正
第9回 「開花後枯れる」セダム植物の欠点の解決求めて 逆転の発想 花の長寿命を開花リレーで長期化する技術開発
第9回
「開花後枯れる」セダム植物の欠点の解決求めて
逆転の発想 花の長寿命を開花リレーで長期化する技術開発
2000年当時、屋上緑化の維持管理で最も苦慮していたのは、
セダム植物の安定した長期緑化をどのようにして管理するかであった。
薄層屋上緑化を実施している各社の抱えている問題も大小の差こそあれ、
最大の問題はセダム植物特有の「開花後に花柱(花枝)が枯損する現象」ではないだろうか。
メキシコマンネングサの開花シーンは黄色いジュータンを敷き詰めたきれいな景色になるが、
一か月後には花枝が枯れ枯れ野が出現する。さらに枯草を取り除くと不毛の地面が露出する。
開花のシグナルは天地をひっくり返す出来事の前兆と怯える毎年であった。


これを解決するために、肥料を制限する低肥栽培、草丈を押える超薄層栽培、
成長を遅らせる超透水性培土栽培、花枝を早期に刈るなど多くの方法が試されたが効果的な方法は見出されなかった。
開花の仕組みは植物の成長の多くのホルモンの作用で成り立っており、花は花性ホルモンの作用で引き起こされる。
植物の一生は発芽~成長~開花~種子散布~枯死のサイクルで成り立っており、
開花阻止を花性ホルモンが分泌されてから抑制するのは難しい。
また植物の成長サイクルを止める事は枯死を意味しこれも難しい。
そこで開花期間を長くし、その間に葉芽を成長させ、葉芽と枯損する花枝を入れ替わらせる事ができれば
外見上花枝の枯死は目立たなくなるのではないかと考え開発した技術を紹介する。
この手法は組織培養を園芸に応用したホルモンにより生体を制御する栄養繁殖法に分類され、
試験管培養法または組織培養法と一般に呼ばれている。ウイルスフリー苗を生産する分裂組織培養では
成長点(茎頂分裂組織)にサイトカイニンを過剰投与する事により葉腋の新梢を形成させる。
新梢が同時に成長を始め成長した物を分離して培養し新しい植物体を作る事である。
本方法はこれを改良し、すでに成長段階を進んでいる成長点(茎頂分裂組織)にサイトカイニンを過剰投与する事により
休眠状態となっている花腋を活性化させ順次開花させる手法である。
ここで重要なのは組織培養法と同じサイトカイニン投与法を採用すると、
茎に存在する葉腋・花腋すべてに作用し帯化を形成する場合があり目的とする連続開花を実現できない。
そこで茎の伸長をより強力に進めるジベレリンなどの成長ホルモンを組み合わせて過剰投与して
植物のホルモン作用順位を調整することが重要である。
この点がこの手法のノウハウ部分であり一様に試験しても成功しないカギとなっている。


環境制御のための植物生理 中野明正 池田英男 ほか監修 農文協より
一般の植物に見られる頂花優先成長植物では、花芽が形成されると頂花芽のみが成長し、
側芽の花芽は休眠状態が続く、不幸にして頂花芽が折れたりした場合は次の側芽が花芽として成長し
開花する事は経験的にご存じの事だろう。では植物ホルモン処理で頂花の存在する
花枝の葉柄についている側芽を活性化させ、頂芽より下に順次ついている葉柄毎の花芽も活性化し開花させる事が出来れば、
頂花開花種から多花種に転換することが実現し、かつ1回の開花で終了する花期を葉柄毎の多段花にする事により、
上段から順次開花し最終段までの花期が本来の数倍以上に及ぶ事ができるのではないだろうか。
これが可能となれば多花性品種の開発が交配や突然変異の手法を用いなくても実現するのではないだろうか。
また、副次効果として植物の側芽の成長を促進し、枝の多い植物形態を作り出す事も可能となる。
これを可能とする植物ホルモンは細胞分裂促進サイトカイニンである。
しかし、植物は単独のホルモンだけでは目的とする特性を出す均衡がとれず、
試験薬にジベレリン、オーキシンンを補助成分に加える事で生体としての維持を可能とし、
頂花芽から下方に向かう葉柄毎の花芽に作用して上段から順次開花を促す事ができる。
その効果の発現量は、サイトカイニンでは0.05~20重量ppmで効果を表す。
主補助剤として使用するジベレリンはサイトカイニンの20倍から200倍の添加量を推薦する。
これらのホルモン剤は植物種と個体差、環境に大きく影響するので参考値である。
これらの一連の操作により試験体は春に成長を開始した植物の新芽は、
頂芽優勢で成長すると同時に休眠芽を活性化させ分げつ促進し側芽の成長促進し樹木のような側枝の成長を促す。
花芽についても同様に休眠花芽の活性を促進し、本来1回の開花にて終了する特性がある植物の
休眠花芽を活性化させ順次開花をつなげ、本来の開花期の数倍長い期間継続させることができる。
また、結実後花枝あるいは結実枝が枯死する性質を持つ品種では、側花芽の成長を促進し開花を促進する。
これにより1期で終わる花期が連続している間に、葉芽伸長が花柱を越して外見上は枯損が目立たず緑化が
継続している景観を作る事ができる。ここで疑問として、なぜ葉芽は成長するのか?と思われるだろう。
それは細胞分裂促進ホルモン:サイトカイニンは処理した箇所(芽)に作用し、処理していない芽には作用しない点にある。
葉芽は処理時点では株基部の付近の薬剤が当たらない場所にあるあるか、あるいは芽を形成していないので処理を免れる。
また試薬を多量に散布し株全体に及ぶと葉芽にも効果が表れ細胞分裂が促進し株元で帯化する事がある。
実験例
5月10日 標準種メキシコマンネングサの開花盛期
左側:標準メキシコマンネングサ 開花中、草丈が伸び花序の重さで倒伏する。
倒伏により日光を遮り 新芽の成長を阻害する
右側:試験区 茎太になり草丈が低く 密集した花序は塊状花房に下段より順次開花する


7月3日 標準メキシコマンネングサの開花から50日経過
標準メキシコマンネングサ区:花期が終了(花柄(花枝)は除去している)
試験区 :試験区は開花が継続している

一連の試験より得られた結果
利点
1 開花期が2ヶ月以上続く、標準種の3~4倍の長期間連続開花がみられた。
2 開花後も最下段まで開花が続いている間は、花枝の枯れる率が少ない。
3 背丈が低く、徒長しない。
4 薬剤効果は半年継続。
欠点
1 開花中の枝からは発根しない
2 花期終りには、花柱(花枝)が株元より倒れる事がある
2 効果は株単位で異なり、広範囲を画一的に管理できない。
3 使用時期を慎重に判断、植物の体調により効果が不安定となる。
総合判定
実験レベルでは長期開花は可能であるが、圃場レベルの実用レベルには到達していない。
理由:被植物の処理適時の判定の難しさが上げられる。
本試験は緑化メーカーの複数社がチャレンジしたが安定した結果が得られなかった。
その理由は処理適時の不一致が上げられる。
最適タイミングは休眠芽が活動を開始したタイミングであるが試験者の見定めが異なる事に有る。
処理タイミングが合えば画期的な技術であるが、広範囲の植物の生育が同一条件ではなく、
実用性には乏しいと言わざるを得ない結果となった。
応用技術
ホルモン剤を使った植物の成長調整技術は、後の化学突然変異剤を使った新品種の開発の基礎技術となり
セダム種類、キリンソウ種類、野菜の新品種開発の基礎技術となった。
共通する各種変異剤の投与時期とその処理法は、文献上で調べても重要な部分は記載されてない事がほとんどで、
記載が有っても実際には成功しない。
そこには偶然とノウハウの壁があるからで、壁の突破は自力で成し遂げる必要が有るのである。
興味のある方はぜひ試して頂きたい。
ホルモン剤を使った植物成長調整技術の応用例
化学突然変異剤を植物の成長調整技術に応用した成果
小松菜の半面白色キメラ葉

この変異は区分キメラに該当、遺伝すると思われる。

突然変異育種 渡辺好郎 山口 彦之 養賢堂出版 より転載
屋上緑化システム株式会社
技術顧問 山下 律正
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